沢木耕太郎「一瞬の夏」レビュー
爽快な感動話ではない
プロボクシングの元日本ミドル級チャンピオン、大和武士が少年院でこの本を読んでボクサーになることを決意した、という話を吉田豪のインタビュー本で読んだことがきっかけで読んでみることにした。
※ネタバレはしないので、未読の方もご心配なく。
沢木耕太郎は大学生の頃に周りでよく読まれていた作家だが、今まで読んだことがなかった。
実話に基づく作品ということなので、ノンフィクションということになるが、一人語りの文体がなかなかとっつきづらく読み進めるのに少々苦労した。
(最近ほとんど小説的なものを読んでないことも原因のような気がする)
上巻の半分ぐらいまでは、淡々と話しが進んでいく。
淡々というか、少々どんよりした感触だ。
そのほとんどはボクサーの生活の苦しさ ー金銭的なもの、ボクシング界のしがらみ的なものー から来るものだ。
上巻の後半から話が盛り上がってきて、読んでいる方の気分も高揚してくる。
その盛り上がりは下巻の前半ぐらいまで続くのだが、その後はまた最初のどんよりした雰囲気に逆戻りしてしまう。
Amazonのレビューを見ると「沢木耕太郎の最高傑作!」的なちょっとアゲ気味な評価が載っているが、そういう気分になる本ではないと思う。
カシアス内藤の復帰にかける思いが、生活の苦しさとか周りの環境とかそういったものに押しつぶされていく様が克明に書かれた本である。
生活苦というものを経験したことのある人には辛い本ではないかと思う。
一気に読み通してしまう力を持った作品ではあるが、気持ちに余裕のあるときに読むべきだろう。