レビュー「読書脳 ぼくの深読み300冊の記録(立花隆)」
「知の巨人」立花隆によるブックレビュー
週刊文春での連載「私の読書日記」をまとめた本である。
立花隆といえば、学生時分には「知の巨人」として大いに読まれたものだが、最近では名前をあまり聞かなくなった気がする。
ネットメディアにあまり露出してないことが原因のような気がするが、もう一つ、田中角栄の再評価機運(角栄は米国の謀略によって失墜させられたという陰謀論から立花隆をその首謀者とする見方)や著作の内容に間違いが多いとする立花隆批判などによって、かつての評価に陰りが見えているのかもしれない。
とはいえ、この本など、数ページ読み進めるだけでその博識ぶりに圧倒されてしまう。
世評はどうあれ、やはり当代一級の知識人であることに間違いはないだろう。
肝心の中身だが、前半が東京大学附属図書館副館長を務めていた石田英敬教授との対談で、後半が文春の連載をまとめたもの、という体裁である。
石田教授との対談は、主にネット利用によって知識を得る手段に変化が起きており、それが人間の知性にどのような影響を与えるのか、という話が主眼となっている。
そのことについて良い悪いの結論がここで出ているわけではないが、昔と今では全く状況が異なっていることを意識するべき、という気づきが得られる良い対談ではないかと思う。
あらゆる領域の本が取り上げられており圧倒される
後半はブックガイドである。
どういう基準で本を選んでいるのか、この本の中で著者自身が書いているので引用する。
私はこのページ(週刊文春の連載ページ)を書評のページとは思っていない 。また純粋に私的な読書ノートとも思っていない 。むしろ 、そのときどきで書店の店頭にならぶ本の中で 、読む価値がある本の紹介のページと思っている 。(中略)選ぶいちばんの基準は広義の 「面白い 」ということに置いている 。といっても 、単なる娯楽本読み物本のたぐいは 、いっさい排除している 。フィクションは基本的に選ばない 。(中略)私の場合 、関心領域が広いから 、領域の取り合わせ 、本の内容のむずかしさ 、肩のこらなさなどの取り合わせにも気を使いながら 、次に取りあげる本を選んでいる 。もう一つ気を使っているのは 、あまり知られていない本だが 、「こんな本が出ているということそれ自体にニュース価値がある (人に知らせる価値がある ) 」と思うような本に出会ったときは 、それを積極的に取りあげるということである 。その反対に世評が大きすぎる本の場合は 、ワンランク下の力の入れ方にして 、取りあげないか 、取りあげても軽い言及にとどめるということである 。
つまり立花隆が「読む価値がある」と判断した本が取り上げられているわけで、この本はキュレーター立花隆による「ブックガイド」として考えて差し支えないだろう。
購入したのはKindle版だったので、iPadで読みながら気になる書籍、著者、キーワードなどを都度ブラウザで調べつつ、読み進めていった。
「読んでみたくなるようにその本の良い点を抽出して書いている」というだけあって、紹介されているどの本も購買意欲をそそる。
さすがに300冊すべてを買うことは無理だが、どうしても気になる本はAmazonで検索しては購入しながら読んでいった。
読了して数えてみたら取り上げられている本のうち20冊ちょっとを購入していた。
結構な冊数だが中古本も多く含まれるので実際には大した金額ではなかった。
また、Kindle版があるものは基本それを購入したのだが、ほとんどが電子書籍化されておらず、紙の本での購入になった。
また自炊作業がある思うとうんざりするのだが仕方がない。
2000年一桁台は特に電子化に漏れている本が多いような印象だ。
掲載されているのは2006〜2013年に出版された書籍なので多少注意が必要
ちょっと残念というか気をつけないといけないのは、まとめられた連載の期間が2006年から2013年と少々古いことである。
ものによっては10年近く前の本になるわけで、そうなると書かれている内容が古くなっているケースもありうる。
科学分野では新しい発見があったとか、人文系でも出版後、評価が一変している場合、原則、書物としての価値は落ちてしまうと考えられるから注意が必要だ。
もっとも、そういう情報を調べながら購入する本を決めていくのもなかなか楽しいものなのだが。
やはり立花隆はすごいな、ということで、現在、ちょっとした立花隆リバイバルの真っ最中である。
何冊か読書中なので、読み終えたら、またレビューを書いてみたい。