映画「アメリカンスナイパー」は重く、暗いが心を動かす作品でした
2015/12/12
米国で「大ヒット」という、「アメリカンスナイパー」を観ました。
監督はクリント・イーストウッドなので、まず駄作ということは「ありえません」が、かなり重い映画です。重い、ということであれば、クリント・イーストウッドはこれまでもそういう映画をたくさん撮っていて(例えば「ミリオンダラー・ベイビー」とか)、これが初めてではありませんが。
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原作はイラク戦争で活躍した狙撃手の自伝ということで、国威発揚的なプロパガンダ的な映画と見られているところもあるようです。米国では擁護派と反対派が喧々諤々といった状況のようですが、どちらかといえば擁護派が主流のようです。
反対派の意見としては「イスラム側の描かれ方があまりにも非人間的」「イスラムに対するヘイトクライムを煽る」といったものです。米国では実際にこの映画の影響と思われるイスラム教徒の殺人事件が起きているようなので、そうした意見はもっともだと思えます。
ですが、鑑賞後によくよく作品について思い巡らせてみると、この映画はイスラムと西側諸国との対立を描いた政治的なメッセージをもった内容ではなく、クリス・カイルというひとりの帰還兵の生き様について描かれた映画だと感じます。原作になった自伝は読んでいませんが、そちらもおそらく同じトーンなのではないかと思います。
イスラム側のスナイパーの描かれ方が非人間的だという批判ですが、作品としてはそこを深堀りする映画ではないということです。もちろんイスラムのスナイパーについてもクリスと同じように「生活」や「使命」というものがあるわけで、これは観る人間の想像力の問題でしょう。この映画については「アメリカンスナイパー」という作品であって「イスラミックスナイパー」という映画ではないから、そんな描写になったということだと思います。
主人公のクリス・カイルは最初にも書いた通り、いわゆる「英雄」として帰還するわけですが、母国に残してきた家族への思いと出征せざるを得ない軍人としての愛国心との板挟み、劇中では次々に死んでいく戦友や戦場での死と隣り合わせの毎日とによって精神を病んでいく様が描かれていて、「英雄」であってもこんな状況に追い込まれてしまうのかと、やるせない気持ちになります。ストーリー展開としてはむしろ淡々と進んでいって、戦場映画的な派手な演出は抑え気味なので、余計に悲惨な印象を受けました。
なので鑑賞後は重く暗い気持ちになりますが、心を動かされる映画には間違いありません。「ああ面白かった、サイコー!」という作品では決してありませんが、「米国の帰還兵」という視点からイスラムや日本を含めた西側諸国を取り巻く現在の状況を考えるきっかけとなる、良い映画だと思います。
アメリカンスナイパーという作品についてもっと深堀りしたいということであれば、下記のサイトがおすすめです。出演者や製作者、原作者であるクリス・カイルについてのいろんなエピソードを集めていて、作品の理解を深めるにはとても良いサイトだと思います。ただ、ものすごーく情報量が多いのでまとまった時間を取ってごらんください :-)
イーストウッド アメリカンスナイパー記録 ブラッドリー・クーパー
映画の公式サイトはこちら。